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【筆者について】 元医療従事者。家族が糖尿病と診断されたことを機に、最新の信頼できる研究論文を徹底的に調査しています。
【YMYL領域に関する重要事項】 この記事は、皆様の健康や生活に大きな影響を与える可能性のある「YMYL(Your Money or Your Life)」領域の情報を扱っています。そのため、以下の点を明確にした上で、情報を提供します。
- 筆者は医師ではありません。 この記事は、個別の医学的アドバイスや診断、治療に代わるものではありません。
- 記載されている情報は、信頼性の高い研究やガイドラインに基づいていますが、万人に当てはまるものではありません。個人の体質や健康状態によって最適な対策は異なります。
- 健康診断で異常を指摘された方は、自己判断で対策を行うのではなく、必ず専門の医療機関を受診し、医師の指導を受けてください。
まだ間に合う!健診で「血糖値高め」と指摘されたあなたが正常値を目指す全知識
健康診断の結果に「血糖値が高め」「糖尿病の疑い」と書かれ、不安を感じていませんか?しかし、その不安を希望に変えるために、この記事は存在します。
あなたが「境界型(糖尿病予備群)」という、まだ引き返せる大切な段階にいるのなら、決して手遅れではありません。複数の大規模な介入研究では、境界型の段階で適切な対策を行えば、多くの方が正常値に改善する、あるいは糖尿病への進行を大幅に防げることが示されています。
この記事では、専門的な言葉を極力使わず、あなたが「今何をすべきか」をステップバイステップで具体的に解説します。読み終わる頃には、漠然とした不安が「これならできる」という行動計画へと変わっているはずです。
糖尿病とは?健診で指摘された人がまず知るべき3つの事実
「糖尿病」と聞くと不安になるかもしれませんが、まずはご自身の状況を正確に理解することが大切です。ここでは、あなたの不安を和らげ、希望に変えるための3つの科学的な事実をお伝えします。
事実1:境界型は、まだ「糖尿病」ではない
最も知っていただきたいのは、境界型はまだ糖尿病ではない、ということです。日本糖尿病学会の診断基準では、HbA1cが6.5%以上で初めて「糖尿病型」と診断されます。あなたはまだ、引き返せるセーフティゾーンにいるのです。この段階で体のサインに気づけたことは、将来の健康を守る上で非常に幸運なことです。
事実2:しかし、何もしなければ年間5~10%が糖尿病へ進む
一方で、「まだ大丈夫」と安心しきるのは危険です。境界型の状態を何の対策もせずに放置した場合、年間で約5~10%の方が本格的な糖尿病へ移行するというデータがあります【出典:日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」】。医師の「様子を見ましょう」という言葉は、あなたの未来を変えるための重要な猶予期間なのです。
事実3:たった5%の減量で、未来は劇的に変わる
絶望する必要は全くありません。米国の糖尿病予防プログラム(DPP)という大規模研究では、体重をわずか5~7%減らすだけで、糖尿病への進行リスクを58%も低減できることが証明されています【出典:Knowler WC, N Engl J Med, 2002】。例えば70kgの方ならわずか3.5kg。この小さな努力が、インスリンの効き目を劇的に改善させます。
※HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー):過去1~2ヶ月間の血糖値の平均を反映する、血糖コントロール状態を知る上で最も重要な指標です。
あなたの検査値は大丈夫?診断基準と次にやるべきこと
「要精査」という結果を前に、ご自身の検査値が示す意味を正しく理解し、次に取るべき行動を明確にしましょう。
【表】HbA1cと空腹時血糖の診断基準(日本糖尿病学会)
| 検査項目 | 正常型 | 境界型 | 糖尿病型 |
|---|---|---|---|
| HbA1c (%) | 5.5 以下 | 5.6 ~ 6.4 | 6.5 以上 |
| 空腹時血糖値 (mg/dL) | 109 以下 | 110 ~ 125 | 126 以上 |
注)境界型の診断には、必要に応じて経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値:140-199 mg/dLも参考にされます。
重要なポイントとして、糖尿病の診断は1回の検査だけでは確定しません。別の日に行った再検査でも「糖尿病型」の数値が確認されて、初めて診断が下されるのが一般的です。
「要精査」と言われたら、今すぐやるべき3ステップ
- 内科を受診する: かかりつけの内科、できれば「糖尿病専門医」がいる医療機関を探して予約を取りましょう。
- 健診結果を持参する: 受診の際は、必ず健診結果の用紙を持参してください。お薬手帳や、最近の体重変化を記録したメモがあると診察がスムーズです。
- 医師の指示に従う: 医師の判断で、再度の血液検査や、より精密な検査を行うことがあります。この受診こそが、あなたの健康な未来への最も確実な第一歩です。
境界型の今から始める!血糖値を下げる具体的対策
医師の診察を待つ間にも、あなた自身で始められることはたくさんあります。ここでは、世界中の研究で効果が証明された、今日から実践できる生活習慣改善策をご紹介します。
1. 食事:「何を」「どう食べるか」で9割決まる
食事改善は「厳しい制限」ではなく、「選び方」と「食べ方」の工夫が大切です。
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食べ方の工夫:「食べる順番」を変えるだけで効果絶大 最も簡単で、すぐに効果を実感しやすいのが「食べる順番」です。同じ食事内容でも、「①野菜・海藻類 ②肉・魚 ③ご飯・パン」の順で食べるだけで、食後の血糖値の急上昇を約30%も抑制できることが、複数の臨床研究で一貫して示されています。まずは夕食だけでも「サラダから食べる」を意識してみてください。
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選び方の工夫:あなたの味方になる食材・少し気をつけたい食材 「完全に禁止」の食材はほぼありません。
- 積極的に選びたい味方食材: 白米より玄米、食パンより全粒粉パン、うどんよりそばなどの「茶色い」主食。脂ののった青魚、鶏胸肉、豆腐、納豆。ブロッコリーなどの色の濃い野菜、きのこ類、海藻類。無塩のナッツ類。
- 頻度を考えたい食材: 菓子パン、即席麺、清涼飲料水は特別な日のご褒美に。加工肉や揚げ物は週1〜2回程度に。
2. 運動:「週150分の早歩き」は薬に匹敵する
ハードなトレーニングは不要です。1日合計で約20分の早歩きを毎日、または1回30分を週5日行うだけで、HbA1cを0.7%下げる効果が期待できます【出典:Umpierre D, JAMA, 2011】。これは一部の糖尿病治療薬に匹敵する効果です。通勤時に一駅歩く、エスカレーターを階段に変えるなど、「すきま時間」の活用から始めましょう。
※この効果は主に2型糖尿病患者を対象とした研究で示されたものですが、境界型の方においても同様の改善効果が強く期待できます。
3. 睡眠:「7時間睡眠」が天然の血糖降下薬になる
睡眠は血糖コントロールの隠れた主役です。6時間未満の睡眠が続くと、血糖値を下げるホルモン「インスリン」の効きが悪くなります【出典:Shan Z, et al. Diabetes Care. 2015】。理想は7~8時間。まずは「いつもより30分早く布団に入る」ことから始めてみませんか?
なぜ対策が必要?知っておくべきリスクと希望の真実
「なぜ頑張らないといけないの?」その理由である「リスク」と、努力がもたらす「希望」についてお伝えします。
リスク:合併症の正体「しめじ」
糖尿病で本当に怖いのは、高血糖が続くことで全身の血管が静かに傷つけられていく「合併症」です。特に重要な三大合併症は、頭文字をとって「し・め・じ」と覚えます。
- し:神経障害(足先のしびれや痛みから始まる)
- め:網膜症(自覚症状なく進行し、日本の失明原因第2位)
- じ:腎症(人工透析が必要になる最大の原因)
これらの合併症は、一度進行すると元に戻すのが困難ですが、境界型の今なら十分に予防できます。
リスク:「痩せていても安心」は日本人には通用しない
実は、日本人の糖尿病患者の約4割は、肥満ではない(BMI25未満)のです。アジア人は欧米人に比べ、遺伝的にインスリンを分泌する能力が半分程度しかありません。そのため、痩せていても内臓脂肪が溜まると、簡単に血糖処理能力のキャパシティを超えてしまうのです。体重だけでなく、腹囲(男性85cm・女性90cmが目安)の管理も重要になります。
希望:糖尿病は「寛解」できる時代になった
「糖尿病は一生治らない不治の病」というのは、もはや過去の常識です。最新の研究では、2型糖尿病と診断された人でも、薬なしで血糖値を正常範囲にコントロールできる「寛解(かんかい)」という状態を達成できることが証明されています。 イギリスの臨床試験「DiRECT」では、診断早期に10kg以上の減量を達成した人の57%が寛解に至ったと報告されました【出典:Lean MEJ, Lancet, 2018】。境界型のあなたなら、その可能性はさらに高いのです。
※寛解は「完治」とは異なり、体質自体が変わるわけではありません。そのため、寛解を維持するためには継続的な生活習慣の管理が不可欠です。
よくある質問(FAQ)
Q1. HbA1c 6.5%は、もう糖尿病確定ですか?
A1. いいえ、1回の検査だけでは確定しません。診断には別日の再検査でも同様の結果が出ることが必要です。重要なのは、この数値が出た時点で「危険信号」と捉え、すぐに生活習慣の改善と医療機関の受診という行動を起こすことです。
Q2. 糖尿病の初期症状には、どんなものがありますか?
A2. 境界型の段階では、ほとんどの場合「無症状」です。これこそが糖尿病の怖いところであり、健診の重要性を示す理由です。「喉が渇く」「トイレが近い」といった症状が出る頃には、病状はかなり進行しています。
まとめ:あなたの未来は、今日の小さな一歩で変えられる
健診結果を見て抱いた不安が、少しでも和らいでいれば幸いです。最後にもう一度、最も大切なことをお伝えします。
- あなたはまだ糖尿病ではない。そして、正しい対策で糖尿病への進行は大幅に防げる。
- まずやるべきことは「医療機関の予約」。そして今日から「食べる順番」を変えてみる。
- 「体重5%減」「週150分の早歩き」が、あなたの未来を劇的に変える力を持っている。
最初の2週間は少し大変に感じるかもしれません。しかし、それを乗り越えれば、新しい健康的な習慣はあなたの生活の一部になります。3ヶ月後、改善した検査値を見て、きっと「あの時、行動してよかった」と安堵しているはずです。
この記事の情報源と信頼性について
この記事で紹介した数値や医学的知見は、査読付きの権威ある医学雑誌に掲載された研究論文や、公的機関が発表したガイドラインに基づいています。
- 主要な根拠:
- 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」
- Knowler WC, et al. N Engl J Med. 2002.(DPP研究:リスク低減)
- Umpierre D, et al. JAMA. 2011.(運動療法の効果)
- Lean MEJ, et al. Lancet. 2018.(DiRECT研究:寛解)
- Yabe D, et al. J Diabetes Investig. 2015.(日本人特有のリスク)
- Shan Z, et al. Diabetes Care. 2015.(睡眠と糖尿病リスク)
※医学情報は日々更新されます。個別の治療方針については、必ず主治医にご相談ください。

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